ムジカノーヴァ 10月号

P.鷲見加寿子

 鷲見加寿子は、東京音大教授として長く教育活動に携わり、多くの優れた弟子たちを育て上げたが、当夜の退任記念演奏会では、篠永紗也子、前田史也、小林遼、齊藤文、小原慧子、手嶋菜月、大橋緑、根岸玲那、中村純子、岩間有美恵、森浩司、一柳麻衣、濱本愛、山崎裕、池村京子、石井理恵、石黒典子、佐藤彦大、小菅優といった彼女の弟子たちの他、バリトンの寺田功治、チェロのチョウ・チン、ヴァイオリンの佐藤俊介、中川直子、ヴィオラの生野正樹、チェロの門脇大樹らがゲスト出演し見事な演奏が繰り広げられていた。
 演奏会のヴォリューム自体がかなりのものであったため、ここで全部の演奏に触れることは到底不可能であるが、登場した若いピアニストたちのレヴェルの高い演奏は、鷲見の名教授としての力量と実績を痛感させすにはおかない内容であり、彼女の教育者としての偉大さを改めて認識させた。 全体は4部から構成されていたが、豪華なメンバーが続々と登場した第3部以降は、特に聴きごたえのある名場面といってよく、記念行事の枠を越えて聴き手に第一級の演奏を立て続けに楽しませてくれた。 プログラムの最後では、鷲見加寿子自身が登場し、シューマンの《ピアノ五重奏曲》が演奏されたが、彼女は、佐藤俊介が率いる素晴しいバックに引き立てられ、非常に感情の豊かな趣の深いピアノを語り継いでいき、聴衆の大きな喝采を浴びていた。これをひとつの区切りに彼女が今後も質の高い教育活動と演奏活動を続けていき、我が国のピアノ界に長く貢献してくれることを祈りたい。(7月6日、紀尾井ホール)
柴田龍一